ITの魅力は、机上の空論ではうまくいかないところ
電気、ガス、水道…これらに加えて私たちの生活を支えているインフラが『情報』だ。スマートフォン、飛行機の搭乗システム、電子マネー、ETC、GPSなど、便利なシステムのほとんどが、正常なネットワークにより作動している。情報が絶たれてしまうとライフラインにも影響を及ぼす時代に突入してきている。
「ITインフラを整備し、正しい情報を手元に届けること」――自分たちのミッションをこう語るのは、株式会社シーエスコミュニケーションの代表取締役・牧草亮輔だ。
シーエスコミュニケーションでは、ネットワークの構築・設計をはじめ、システムの導入やインターネット接続の環境整備、さらにはトラブルに応じたヘルプデスク対応まで、ネットワークシステム全般にかかわる事業を展開している。
たとえば大型データセンターのサーバー増設や既存プログラムの言語変換・移行、オフィス移転に伴うサーバーシステムの分析など、サービスの対応領域はかなり幅広い。SIer経由で官公庁関連の新システム導入に携わることになったときは、先方サイドで仕様や要件が固まらないまま作業を進めなければならない状況だったが、一つひとつの業務フローを確認しながらテスト検証などを繰り返し、システムを完成させたこともある。どんな案件に対しても真っ向から向き合い、的確な判断を下して、相手のニーズに応えてきた。
「実は技術職出身で、もともとは個人で事業をスタートしたんです。町の御用聞きのような立場であちこちに出向き、お客様の要望を解決していく。そんなスタイルで始めたものですから、20年以上経った今でもお客様に対しては常に親身でありたいと思っています」
当時と変わらないのは仕事への姿勢だけではない。牧草はずっとITビジネスの可能性と進化を信じ続けてきた。事業を開始したのはちょうどWindows95が世に出た頃だったが、下町の個人店は皆アナログなまま。売上管理を手作業で行っているのを見て、「なぜエクセルの表計算を使わないんだろう」「なぜ便利なものを積極的に使わないんだろう」と不思議に感じていた。ITがもたらす利便性の向上と効率化により世の中の暮らしが変わることは、この頃から予測していた。
機械やコンピューターの魅力について牧草は、「机上の空論だけではうまくいかないところ」と答える。0と1しか使わない2進法の採用が主流となっているコンピューターには、ほぼ欠陥が生じることはない。しかし製作段階で人の手が加わっている以上、何億分の一の確率だとしてもバグが起こったり、シミュレーション通りにいかなかったりする。その複雑さを面白いと思えるか思えないかが、ITビジネスに携わる上で重要だという。
「以前司法試験の勉強をしていたことがあったのですが、法律とコンピューターはどちらもロジカルシンキングが必要とされると思うんです。法律家は道理に背いた人間の行動・思考を紐解いていきます。コンピューターも、実証実験がスムーズに進んだとしてもいざ本稼働してうまくいかなければ、ITエンジニアが現象を解明しなければなりません。マニュアルや正しい改善方法がない中でも、『何が原因で正常に動かないのか』『仕組みをどう変えればいいのか』と興味を持って試行錯誤することが求められます。最低限の技術や知識はもちろん大事だけど、『なぜ?』を繰り返していける人が、今後のIT業界でも力を発揮するのだと思います」

人の心に敏感でいられるようになった青春時代
父親の転勤により、いくつもの学校を転々とした小学生時代。新しい環境になじまなければならないストレスが体調に表れやすく、常に小児用の鎮痛剤を持ち歩いている少年だった。外で遊ぶのに夢中な友人たちとは違って、病弱な自分を打破すべく、牧草は勉強に没頭。特に算数が好きで、進学校でしか習わないような公式を使って問題をパズルのように解いていくのが楽しかったという。「こう計算すれば答えが出る」という論理的思考が養われていき、いつの間にか学年でトップ、周りからは「神童」と呼ばれていた。
その後、持ち前の探求心は、周囲の人へも関心を示すように。人の行動を見るだけでなく、「なぜそのような行動を取るのだろう?」と、自分自身も含め人の心の動きにも敏感に反応する青春時代を過ごした。その徹底的に人を知ろうとする姿勢は、人間関係にも生かされたという。学校で接する友人を見て、「なぜ彼はこういう結果を残せるんだろう」「こういう環境で育ったから、今の姿があるのかな」など、人の行動原理やパーソナリティについて考えるようになっていったのだ。
その結果、他人のことを深く理解し、その人だけが持った才能に気付けるようになったという。
「幼い頃から母親にずっと言われていました。『自分に学びを与えてくれる子と友達になりなさい』『すごいと思えるところがある子と付き合いなさい』と。その言葉や中学時代の経験から、会う人々の素質を見抜くのが得意になった気がしますね。高校時代の担任教師には『人の性質を見るアンテナが鋭い』と言われていました」
そのアンテナの察知能力は高いと自負する牧草。実際、「周りの人間とは違う雰囲気をまとっている」と感じていた古い友人が、数年後に会社経営を成功させたり、著名人として世に名を広めることが何度もあった。今一緒に働いている社員の思わぬ才能にいち早く気付くこともしばしば。「相手の潜在能力を見極めるには、相手の心の変化に敏感でいることが不可欠」と話す。
「私の場合、幼少期に繰り返していた転校により、心の動きを察知できるようになったと思います。特に素直さや純粋さが表れる瞬間を見逃さないこと。身振り手振りや話し方、表情…それらは直接膝を突き合わせて会わないと分からないですよね。電話やチャットでは決して感じることができません。話している内容に耳を傾けるだけでなく、その人の一挙手一投足が発信している情報を会話として読み取る。まさにシーエスコミュニケーションという名に通ずる信念ですね」

新たな時代の到来をともにつくっていける人と出逢いたい
シーエスコミュニケーションでは、社員の努力を目に見える形で評価している。たとえば国家資格のネットワークスペシャリストを取得した場合、報奨金30万円と月給5万円アップを約束。一度合格すれば半永久的に役立ち、ネットワークエンジニアとしての腕の高さを証明できるので、チャレンジする社員が増えている。
牧草が理想とする教育スタイルは、社長である自らが社員一人ひとりにマンツーマンで指導すること。その根底には「経営者という立場をもっと身近に感じてもらい、盗めるものは盗んで肥やしにしてほしい」という想いがある。ときには起業を目指す大学生からの見学申し込みを引き受けることもあり、夢を持つ若者たちの背中を押すよう努めている。
一方で「今はすぐに会社を設立できるが生半可な気持ちでは失敗する」と、起業を成功させる難しさにも言及。牧草自身も、本来は技術職として単独で働いていくつもりだったが、依頼が増えてやむなく法人化することに。勉強していた法律の知識を活かし、まずは自力で有限会社を開始。資本金1000万円を貯めてやっとの思いで株式会社にできたのは1年後だった。当時の仲間の中に、「ゲーム会社設立」を目標に掲げているメンバーがいたが、牧草のあまりの多忙さを間近で見て、諦めてしまったという。
「社長業に限らず、思い描くイメージと現実の間には必ずギャップがあります。どんな仕事に就いてもどんな人にも、人生のどこかでは壁が立ちはだかるときが来る。そこで逃げるのか、乗り越えるのかがターニングポイントになると思います。たとえば上場企業の社長とか有名人とかってキラキラして見えますけど、あのポジションにたどり着くまでには失ったものがたくさんあるはず。結婚、子ども、親の介護…生きていれば誰しもたくさんの問題が出てくるので、それまでに対抗できる精神力やパワー、財力をつけておくことが勝負になってくるのではないでしょうか」
シーエスコミュニケーションの主軸事業であるネットワークインフラが世の中に与える影響は今後ますます大きくなっていく。特に牧草がテクノロジートレンドになると予想しているのが、AI、5G、量子コンピューターだ。ビッグデータを活用し、5Gがさらに台頭してくれば、AIは本格的に動き出すだろう。90年代から長年言われ続けていたAI時代の到来は、2020年を迎えようとしている今、すぐそこまで来ている。
「私たちが目指すのは、AIを使用したネットワークの設計・構築の実現です。モジュールにちょっとした仕組みを加えるだけではなく、もっとコアな部分を追い求めていきたい。そのためには、人材力を強化する必要があります。理系、工学系の分野を研究してきた方であれば、知識を活かせるフィールドを用意しています。ともにネットワークの新時代をつくっていきましょう」

リスナーの目線
自社の技術の話に始まり、世界のIT事情や日本の教育など、多岐に渡る話題に対する見解を話してくださった牧草社長。その一方で、同席された社員の方をイジりながらも長所を自慢げに語るなど、ユーモアな一面も見せていただきました。社員一人ひとり、そして社会全体をしっかりと見つめるその目が、シーエスコミュニケーションの今後の可能性を示し続けるのでしょう。
Profile
1974年、京都府生まれ。10代の頃よりギタリストとしてバンド活動を行い京都のライブハウスを中心に多数出演。その後司法試験を目指すが、あまりも費用と時間がかかるため断念。その後、ITに可能性を感じ日商岩井インフォコムシステムズ株式会社(現㈱インフォコム)のインフラSEとしてアルバイト入社。1997年、シーエスコミュニケーションの前身となる個人事業「シー・エス・シー」を創業。2002年、株式会社シーエスコミュニケーションに組織変更し、代表取締役に就任。また、関西電子情報産業協同組合(KEIS)の理事長として、関西のIT業界の活性化を推進するとともに、学生と企業のミスマッチの無い就職を目指す活動も行っている。