【インタビュー】「なぜ位置情報なのか?」を考え、位置情報でまちづくりの納得感を育む|LBMA Japan 川島邦之さん|スマートシティ社会実装コンソーシアム #note

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スマートシティを軸としたまちづくりを推進する一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム内で活動している「まちの魅力発掘・活用ワーキンググループ」では、街の魅の見つけ方やデータを活用した魅力的な街の作り方を探求しています。

各地域、企業でデータを活用したまちづくりを推進する方への事例インタビューを実施しており、今回は「位置情報ビジネスの可能性を日本中に伝える」活動に取り組む一般社団法人LBMA Japanの代表理事 川島邦之(かわしまくにゆき)さんにお話を伺いました。

言葉はよく聞くけど詳しくは知らない、という位置情報についてわかりやすく教えていただき、かつまちづくりでの活用における事例や考え方も紹介いただきました。

興味がある方はぜひご覧ください。

一般社団法人LBMA Japan 代表理事 川島邦之さん NY州立大学プラッツバーグ校卒。米シリコンバレーでのモバイル関連の営業・インキュベーション事業経験を経て、日本にてベンチャー領域に於ける事業開発・経営を歴任。専門分野は、B-B-Cサービスにおける要件定義、事業開発、屋内センシング技術活用DX、位置情報データの活用・流通。2020年2月、位置情報データを活用したマーケティング、サービスを推進するための企業連合「一般社団法人LBMA Japan」を設立、代表理事就任。

位置情報は、属性だけではわからない「インサイト」を教えてくれる

ー位置情報という単語を聞く機会は増えましたが、「位置情報って何?」と聞かれた時、川島さんはどのように答えていますか?

私は「緯度、経度、高さ、精度のデータによって位置(場所)を表すもの」と答えています。

GPSや携帯基地局、Wi-fi、ビーコンなど、現代では様々な機器から位置情報を取得できるようになり、LBMA Japanでは位置情報データを活用したビジネスの支援に取り組んでいます。

ー似た言葉に「個人情報」がありますが、それとは違うのでしょうか?また、どのような違いがあるのでしょうか?

簡潔に話すと、「誰が」を特定するかどうか、の違いがあります。

アプリケーションなどを経由して取得されますが、その際に必ず同意の許可画面が出てきて、その上で個人が特定されない状態で収集されます。

一方個人情報は、UBER Eatsが住所を入力しないと使えないように、個人が特定される状態で使われるものです。

ー言われてみたら、カフェのWi-Fiの同意の許可画面はよく見かけますね。そもそも、川島さんやLBMA Japanは、なぜ位置情報がビジネスにおいて重要だと考えているのでしょうか?

2010年代にアメリカで仕事をしていた時の学びが大きいですね。

アメリカは地域ごとの面積がかなり大きいので、ビジネスにおいては地域戦略がかなり重要になるんですよ。

だからこそ、「誰に来てほしいのか」だけではなく「どこの誰に来てほしいのか」を考える必要があり、位置情報データの活用は世界でも先駆けて行われていました。

また、マーケティングにおけるターゲット設定では年代・性別・趣味嗜好は重要要素ですが、そこには表現されない多種多様な興味がありますし、何よりアメリカでは年齢や性別が聞けないことも多くあります。

そのような事情も踏まえ、これからは「位置」の把握がビジネス戦略に欠かせないものになる、と考え日本でLBMA Japanの活動を展開しています。

ー「日本で」という言葉が出ましたが、私たち市民の目でもわかる変化にはどのようなものがありますか?

交差点でカチカチとカウントしている交通量調査や、花火大会の動員調査などがイメージしやすいでしょう。

後者は昔は車のナンバープレートから居住地を一台一台メモしていたようですが、位置情報が取得できるとその作業が必要なくなり、リアルタイムな安全対策や次年度の集客戦略などに役立てることができます。

位置情報データで個人の行動を深く分析

ーLBMA Japanでは、様々な企業の位置情報データ活用を支援してきていると思います。まちづくりにおける事例があれば押してください。

では、当社が主催した位置情報アワード2024で最優秀賞を受賞した株式会社Agoop / 技研商事インターナショナル株式会社の「Market Analyzer® Traffic」の事例を紹介します。

「Market Analyzer® Traffic」は、GIS(地理情報システム)にAgoop社の人流データを統合した精緻な市場分析ツールで、道路単位と125mメッシュ単位での人流データ分析を可能にしています。

これにより、渋滞緩和施策や避難計画の策定、店舗の立地計画、プロモーションの効果測定を従来よりも精緻に進めることができます。

地域の事業者、ワーカー、住民の全てにとって意義のある情報が得られ、一体となったまちづくりに役立てられると考えています。

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道路単位データ 描画イメージ(MarketAnalyzer® Traffic|技研商事インターナショナル より)

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125mメッシュデータ 描画イメージ(MarketAnalyzer® Traffic|技研商事インターナショナル より)

ー位置情報によって「どこからどのくらいの人(車)が来たのか」がわかると、エリア全体の計画にもかなり役立ちそうですよね。

その通りで、位置情報はまちづくりと相性がいいと考えています。

また、他のツールの事例を紹介すると、特定の地域に居住している人のデータを取得でき、「ある地域の住民が◯%の確率でコンビニAを、◯%の確率でコンビニBを利用している」といったこともデータからわかります。

これを活用することで、自治体やディベロッパーはテナント誘致計画、事業者や出店計画をより具体的に検討することが可能になります。

位置情報を取得しているからこそ、「どこの人がどこから来て、どのぐらいの時間そこにいるのか」と行動をより深く分析し、ビジネスや都市開発をより納得感を持って進めることが可能なのです。

ー「そんなデータも取れるんだ」と驚く事例ばかりでした。事業者側の視点に立つと、位置情報を活用することにはどのような意義があるのでしょうか?

事業を成長・拡大させていく際に大いに役に立つと考えています。

例えば、カリスマ店長が営む人気のラーメン屋が2号店を出したけどうまくいかなかった、というケースもあるじゃないですか。

これは、カリスマ店長と1号店だけにノウハウが溜まっている状態で、2号店で同じことをやっても客層や環境が異なり結果が出なかった、と捉えることができます。

そこで、1号店でもしっかり位置情報を取得・活用することで、「何をしたから、どこからどんな人がどのくらい来たのか」「他の店舗で転用できること/できないことは何なのか」などを分析でき、多店舗展開を根拠を持って進められることに繋がります。

複数の店舗でも位置情報の取得を続けていけば、店舗ごとの違いなども見えてきてさらに有効活用ができると考えています。

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LBMA Japanが公開した位置情報ビジネス&マーケティングカオスマップ2025(カオスマップ | LBMA Japanより)

つくりたい街を形にするための「数値目標」の設定を

ー位置情報データ活用の可能性がかなり伝わってきました。そんな位置情報データを扱う際に、意識すべきことや注意点などはありますか?

データ活用の文脈でよく言われることだと思いますが、「何のために位置情報データを使うのか?」という目的が重要だと考えています。

まず位置情報の取得・活用の目的を明確に向けたロードマップを作成し、その上で「この部分でデータを活用したいから、こういうデータを取得しよう」と考えていくことで位置情報データが効果を発揮していきます。

ー少し具体的にお聞きしたいです。

例えば、自治体として「県内一の観光大国にする」というビジョンがあるとしましょう。

その時に「より多くの人が来るように」という抽象的な目標ではなく、「年間来街者数◯人」という数値目標を決め、「どこからどのくらいの人が街に来ているのか」を位置情報データから取得して現状を把握し、その上で具体的な施策を検討する、という流れです。

それによって、「掲げたビジョンは現在何%程度達成できているのか?」「今何が足りていないのか?」といった具体的な改善策が見えてきて行動に移しやすくなると考えています。

ーお話を聞くに、やはり数値目標の設定は重要なのでしょうか?

私はそう考えています。

定量的な目標があるからこそ、位置情報データを取得する切り口や比較する数字などを決められ、変化を解像度高く観察・分析できるからです。

まちづくりにおいては、具体的な数値目標を立てづらいこともあると思いますが、だからこそ「一旦数値化してみて、一旦目標を置いてみる」ことが重要だと考えています。

目標はいくつもある状態が普通なので、数値目標を設定できるようになるべく細分化して考えてみるといいかもしれません。

一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)とは?

一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)は、スマートシティの具体的な社会実装と持続可能な仕組みづくりを目的に2022年に設立された団体です。

教育・医療・交通・商業・エネルギー・行政など社会全体のDX化「スマートシティ」への取り組みが加速する中で、あらゆる業態・地域の垣根を越えた官民連携のエコシステムの形成を目指して活動しています。

民間企業・大学・自治体など200以上の会員団体とともに、

  • スマートシティに関わるテーマ別の分科会
  • データ連携基盤を活用したサービス開発に関する勉強会
  • サービスカタログ・マーケットプレイスを通じたサービスの掲載・閲覧
  • サービス開発環境の提供、開発者コミュニティの運営

等の取り組みから、スマートシティの社会実装に向けた知見の蓄積と実践に取り組んでいます。

その中で、「街のにぎわい広場」「グリーンインフラ×ICT」「保健師業務支援サービス」など、テーマごとに分科会やワーキンググループを設置し、活発に議論や活動を行っています。

関心のある方はぜひSCSIのWebサイトをご覧ください。

https://www.sc-consortium.org/

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