【インタビュー】参加者が「参画者」に変わるコミュニケーション、働きかけとは。まちづくりの仲間集めのヒントを官民連携事業研究所 晝田浩一郎に聞く|スマートシティ社会実装コンソーシアム #note

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スマートシティを軸としたまちづくりを推進する一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム内で活動している「まちの魅力発掘・活用ワーキンググループ」では、街の魅の見つけ方やデータを活用した魅力的な街の作り方を探求しています。

各地域、企業でデータを活用したまちづくりを推進する方への事例インタビューを実施しており、今回は株式会社官民連携事業研究所で自治体と民間企業の連携事例の創出に取り組む晝田浩一郎(ひるたこういちろう)さんにお話を伺いました。

愛知県岡崎市の自治体職員時代に、自らが空き店舗を活用して賑わい創出の活動に取り組んだ経験や、官民連携を通じて地域の課題解決事例を生み出した事例など、多くのことを教えていただきました。

「仲間集め」や「発意の促し方」のヒントが詰まっているので、興味がある方はぜひご覧ください。

株式会社官民連携事業研究所 執行役員CCO 晝田浩一郎さん 1987年11月生まれ。岡崎市材木町在住。2010年青山学院大学卒、3D CADエンジニアを経て2012 年より岡崎市役所勤務。2020年より㈱官民連携事業研究所、2023年より同社執行役員CCO(現職)。その他多くの業界で人と人、人と地域をつなげる活動を通して地域活性化に取り組んでいる。

参加者が「参画者」に変わるコミュニケーションや行動

Forbesのインタビュー記事にもあるように、長野県塩尻市のスーパー公務員(当時)山田崇(やまだたかし)さんに「僕に会いにきても、どうせ君も何もやらないんでしょ?」と言われたのをきっかけに、公務員時代に岡崎で空き店舗を借りて活動を始めたとお聞きしました。まず何から始めたのでしょうか?

2015年に仲間と一緒に物件を探して契約した後、最初は朝ごはん会と晩ごはん会から始めました。

「食」は人が集まるイメージがありましたし、何より空き店舗活用の経験がなかったので、とにかくできることからやってみよう、と考えての行動でした。

そのような活動を2016年から開始し、2年間は自分たちでとにかくイベントをやり続け、年200回は実施したと思います。

ー年200回ってすごい回数ですね。

とは言っても、「シャッターを開けた回数が年200回以上」という数え方ですよ。

「3人来ればイベントは成立」とも考えているため、ハードルを下げて小さく小さくトライした回数として皆さんにお話ししています。

そのようにイベントを実施し続けたことで、参加者が増えてきた2018年ごろから「私もここで何かやってみたい」という方が現れ始めました。

私たちの活動を見て「やっても大丈夫なんだ」と思ってくれたのかもしれませんね。

ー晝田さんたちの活動をきっかけに他の方もチャレンジし始めたのだと思うのですが、当時どのようなコミュニケーションを取っていたのでしょうか?

まずはイベントの参加者と直接対話し、好きなことや興味があることを深く聞くことから始めました。

例えば、野球が好きでパブリックビューイングに興味がある人がいたとしたら、「じゃあここでやってみましょうよ」と提案し、一緒に企画して実施するようにしていました。

その際、私はあくまで裏方に徹し、主催はその方にお任せすることで、自分自身の成功体験になり次の開催への意欲が増していたように思います。

実際「好きなことを言っていいんだ」「このぐらいのイベントでいいんだ」という感想をたくさんいただき、好きなことから小さく始めることの大切さを私自身も改めて知る機会でした。

ーご自身でも年200回以上の活動をし、その後地域の方のアクションを促す役割も担われてきました。そのモチベーションはどこにあったのでしょうか?

当時はがむしゃらだったので、後から振り返っての言語化になりますが、「失敗したらここ(岡崎)で生きていけない」というプレッシャーはありました。

岡崎市の職員だったので、自分自身が地域の人と合わす顔がなくなりますし、かつ自分が投げ出してしまったら後に続く人にも「どうせあなたも途中でやめるんでしょ?」とネガティブイメージが植え付けられてしまうじゃないですか。

そういう方の未来を潰したくなかったし、「蛭田さんのおかげで私も活動を始められた」と言ってもらいたかったので、とにかく続けることを重視していました。

ただ、先述の山田さんが「終わりのないマラソンだとしんどいから、一旦期限を決めた方がいい」と言っていたので、私は「一旦3年間はやろう」と決めて行動していました。

「3年経ったら終わってもいい」と思えたのは、心理的ハードルを下げることに繋がったと思います。

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市民が抱える課題をテクノロジーを活用して、一緒に解決を目指すCode for AICHI(コード・フォー・アイチ)の様子。2017年に晝田さんが立ち上げた

官民連携は企業に「社会的価値の向上」をもたらす

ーそんな岡崎市での活動を経て、2021年に株式会社官民連携事業研究所に入社されました。文字通り官民連携を推進する役割だと思いますが、ご自身でも年200回以上の活動をし、その後地域の方のアクションを促す役割も担われてきました。そのモチベーションはどこにあったのでしょうか?

オンライン診察でピルを処方するアプリ「smaluna」を運営する株式会社ネクイノさんによる「学生向け婦人科領域個別オンライン相談事業」を、岐阜県立不破高校に導入した事例があります。

これは、性や身体のデリケートな問題を先生や友達などに相談しづらい、周囲の理解不足が理由で学業や部活動に影響が出るなどの問題から「学外の医療の専門家に安心して相談できる」体制を作るために取り組んだものです。

例えば、性別による違いの理解が追いつかず無意識に心無い発言をしてしまう、地域に婦人科がない、通院姿を見かけて変な噂が立つ、など思春期ならではの悩みがある中で、「オンラインで個別に相談できる」ソリューションはまさに高校生が求めていたものだと考えています。

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晝田さんより提供

ーオンラインだからこそできた事例ですね。実際導入してみてどうだったのですか?

実証実験として導入したところ、幸い相談はほとんどありませんでした。

悩みはないに越したことはないですし、「困った時に相談できる人がいる」と安心感を覚えたという声を聞いて嬉しく思いました。

また、この取り組みをきっかけに性教育にも力を入れるようになり、当時の校長先生の「一人で思い悩む生徒がいない学校にしたい」という熱意に応えてくれる結果となりました。

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晝田さんより提供

ー晝田さんはそのような事例を生み出す立場にあると思いますが、どのようなことを意識していますか?

自治体(自治体職員)と企業の熱意を大事にしていますね。

課題を見つけるだけでなく、その課題に興味関心を持って全力で解決したいと思える人同士だからこそ、うまく連携できるのだと考えています。

そのためにも、私はどちらとも直接会って対話をし、同じ景色を共有することを意識しています。

ー連携する企業にとっては、どのような効果があるのでしょうか?

ネクイノさんを例に取ると、

  • オンライン相談の先進事例の創出
  • 将来の見込み顧客へのアプローチや商品のブラッシュアップ
  • 企業価値向上などの効果

があると考えて連携を打診しました。

対象が女子高生ということもあり、目先の利益ではなく長期的な企業価値の向上を見据えて連携に前向きになってくれました。

このように民間企業にとっては自治体との連携で事業や顧客の幅の広がり、社会的な価値の向上などが期待できるため、民間企業が公共事業に関わっていく意義は大きいと考えています。

巻き込む範囲を限定した上で繋ぐ役割を果たす

ー自治体職員をしながらプレイヤーとしても空き店舗活用に取り組み、その後官民連携を推進する立場として活躍されています。ご自身の役割は提供価値はどこにあると考えていますか?

「繋げる」ことが軸にあるのは公務員時代から変わっていません。

公務員時代は「場所と人」「人と人」で、今は「自治体と民間企業」を繋ぐ役割です。

自分が動くだけでなく、周りの誰かの動きを生み出していくことも、そのために何かと何かを繋げていくことも、変わらずやっていきたいと考えています。

ー晝田さんの活動の特徴として「人を巻き込む」「仲間を増やす」ことが挙げられますが、その際に大切なことがあれば教えてください。

意外な回答かもしれませんが、「巻き込む範囲を限定する」ことを大切にしています。

例えば、自分で勝手に始めて行動できる変人は「他人に言われて行動できる変人」と「自分で行動できる凡人」にしか火をつけられず、それ以外の人には響きません。

これは、横田親(よこたいたる)さん(合同会社てにをは代表)が以前おっしゃっていたことで、私はその説明がかなり腑に落ちました。

だからこそ、まずはいろんな方と対話をして、「巻き込んでも大丈夫そうか?」「提案したら行動してくれそうな人か?」ということを見極めるようにしています。

その上で、仲間になってくれそうな人がいたら一緒に楽しく進めていくのが大事だと考えています。

一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)とは?

一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)は、スマートシティの具体的な社会実装と持続可能な仕組みづくりを目的に2022年に設立された団体です。

教育・医療・交通・商業・エネルギー・行政など社会全体のDX化「スマートシティ」への取り組みが加速する中で、あらゆる業態・地域の垣根を越えた官民連携のエコシステムの形成を目指して活動しています。

民間企業・大学・自治体など200以上の会員団体とともに、

  • スマートシティに関わるテーマ別の分科会
  • データ連携基盤を活用したサービス開発に関する勉強会
  • サービスカタログ・マーケットプレイスを通じたサービスの掲載・閲覧
  • サービス開発環境の提供、開発者コミュニティの運営

等の取り組みから、スマートシティの社会実装に向けた知見の蓄積と実践に取り組んでいます。

その中で、「街のにぎわい広場」「グリーンインフラ×ICT」「保健師業務支援サービス」など、テーマごとに分科会やワーキンググループを設置し、活発に議論や活動を行っています。

関心のある方はぜひSCSIのWebサイトをご覧ください。

https://www.sc-consortium.org/

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