「妄想」から水辺の魅力発掘・活用が始まる。水辺総研 岩本唯史さんが語る「社会実験」の重要性とは|スマートシティ社会実装コンソーシアム #note

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「水辺を再構築し、持続可能で豊かな社会を創る」

上記をミッションとして、日本全国で水辺空間の魅力創出活動を行う株式会社水辺総研という会社をご存知でしょうか。

スマートシティを軸としたまちづくりを推進する一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム内で活動している「まちの魅力発掘・活用ワーキンググループ」の定例会にて、水辺総研の代表であり、新しい水辺活用の可能性を切り開く官民一体の協働プロジェクト「ミズベリング」のディレクターも務める岩本唯史さんをお招きしました。

「水辺」という、定義が曖昧かつ多様な主体が関わる場所における、

  • どのように魅力を発掘するのか
  • どのように活用を推進していくのか
  • どのように発意を促すのか

ということを事例を交えて解説いただきました。

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株式会社水辺総研 代表取締役/ミズベリング・プロジェクト ディレクター 岩本唯史さん

「ダメ」が「OK」に変わった河川法改正

水辺に広がる素敵な景色に魅了される人は多いですが、水辺での活動は何かと禁止されている印象を持つ人もいるでしょう。

実際、2000年代までは「水辺に近づくと危ない」と様々な規制がされ、人々が水辺から遠ざかっていました。

しかし、水辺の土地を使った魅力発掘や都市再生を推進する目的で、2011年に河川法と河川敷地占用許可準則が改正され、「ここが『やっていいよ』という流れが生まれる分岐点だった」と岩本さんは語ります。

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また、ミズベリング・プロジェクトでは、水辺活用について意見交換をする場として「ミズベリング〇〇会議」の開催、人々が水辺に足を運ぶ機会としての「水辺で乾杯イベント」など、水辺活用を考えるきっかけを作るところから始まりました。

さらに、ミズベリングのロゴマークをWebサイトで公開したり、「ミズベリング」という言葉を使った取り組みや社会実験を奨励することで、主体的に水辺活用に取り組む人や団体が現れていったそうです。

そして、毎年12月に開催しているミズベリング・インスパイア・フォーラムでは、全国の水辺で活動する名もなきアーリーアダプターをクローズアップすることで、全国に水辺活用の機運を広げることにも貢献しています。

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規制緩和が水辺活用を加速させる

先述のような法改正や機運の高まりを経て生まれた水辺空間の活用について、日本全国の事例をいくつか教えていただきました。

ジオグラビティパーク(埼玉県秩父市)

ジオグラビティパーク(埼玉県秩父市)の渓谷に向かって飛び込むような体験ができる特大バンジーブランコ「キャニオンスイング」は、水辺の魅力を発掘して活用まで繋げた事例です。

荒川渓谷に一つだけ残されていたコンクリート橋脚を見た方が、「これを事業で使いたい」と声を上げたことから始まり、事業構想を進めて今の形となっています。

水辺の公共空間の活用事例が過去になかった中、秩父市や埼玉県と協議して河川占用区域(民間企業が行政に利用料を支払う範囲)を新たに設定し、実現に至ったそうです。

日本初の重力系アクティビティパークと謳うジオグラビティパークは、今では「秩父の地形の魅力が一番わかる」と人気のアクティビティスポットとなっています。

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北浜テラス(大阪府大阪市)

昔はホームレスが集まっていた場所において、「ここには豊かな水辺がある」と声を上げた人が現れたことから、上質なテラス空間が整備された大阪の北浜テラス。

大阪では電力会社が参画していたこともあり、都市再生を「水と光」をコンセプトとして、行政施策として民間企業や住民も巻き込んで水辺の空間作りが推進されました。

驚きなのが、テラスが民地と公有地(河川空間)をまたがるように設置されている点。

これは、土地オーナーやカフェオーナーが北浜水辺協議会を組成しており、協議が進み規制緩和が実現したことで、「公有地の上に、民地であるカフェのテラスを設置する」ことが実現しました。

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ミズベリングアウトドアラウンジやすらぎ堤(新潟県新潟市)

新潟市を流れる信濃川に分水路を作ったことで水災害の可能性が減り、かつ強度を上げるために堤防がなだらかになったことから、カフェやイベントなど堤防空間の活用が始まりました。

「萬代橋サンセットカフェ」という期間限定オープンのカフェや、地元の商工会議所が主体のイベントなど、事業活動の事例が少しずつ生まれていったそうです。

その後、新潟に本社を置く株式会社スノーピークと新潟市が連携し、新潟の豊かな自然を身近に感じられる場所としてミズベリングアウトドアラウンジやすらぎ堤を整備。

スノーピークのアウトドアを活用して、水辺で心地よい時間を過ごせる空間は新潟の夏の風物詩として、「ミズベリングをしてきた」という会話が生まれるなど、水辺活用が文化となり市民権を得た取り組みとなっています。

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社会実験が妄想を形にし、人を動かす

この定例会の中で、岩本さんが繰り返し主張したのが「社会実験」の重要性。

社会実験を以下のように定義し、その意義や事例を紹介いただきました。

  • 個人が妄想からまちに関わり、コトを起こしていく手段
  • 個人や組織が成長して変化する手段
  • 課題を共有して、成果をともにあげていく手段
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例えばウォーターズ竹芝(東京都港区)では、ディベロッパーのある社員さんが竹芝エリアの水辺のポテンシャルに目を向け、妄想することから社会実験が始まったそうです。

行政や船業者、漁業者などを説得しながら小さく社会実験をして成功事例を生み出すことで、事業者や行政の理解を得て開発が実現した、という事例となっています。

このように、多様な主体が関わるからこそ社会実験という形から始め、人を巻き込みながら開発を進めていくことで、当事者と思っていなかった人も含めて成長し魅力ある水辺が生まれていく、と岩本さんは語ります。

しかし社会実験は、資金は行政が捻出し、実際に取り組むのは民間企業であることが多いもの。

だからこそ、行政だけでなく民間企業や地域にもフィードバックを蓄積し、社会実験そのものが地域の資産になっていくように取り組むことが重要だ、と教えていただきました。

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水辺は多様な主体が関わるからこそ、打開策は意外と多い

他にも、建物の開発案件で水辺空間の活用もセットで公民が連携して協議し、「建物も水辺も一緒に開発することで地域が良くなる」という合意形成をもとに進めた開発事例なども共有いただきました。

日本各地のエリアマネジメントの取り組みでも言われているように、敷地や建物だけでなくエリア全体の魅力を高めていく視点が必要であると言えます。

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さらに、民間と行政が分担して資金投下をするキームもあること、多様な制度や資金調達方法があることなど、打開策が意外と多いことも教えていただきました。

だからこそ、まずは妄想から始めて小さく実験していき、規制緩和や制度活用を検討して魅力ある水辺空間を作ることが重要なのでしょう。

紹介いただいたことは全て「妄想」から始まったものであり、水辺活用のハードルが下がり夢が膨らんだ定例会となりました。

一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)とは?

一般社団法人スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)は、スマートシティの具体的な社会実装と持続可能な仕組みづくりを目的に2022年に設立された団体です。

教育・医療・交通・商業・エネルギー・行政など社会全体のDX化「スマートシティ」への取り組みが加速する中で、あらゆる業態・地域の垣根を越えた官民連携のエコシステムの形成を目指して活動しています。

民間企業・大学・自治体など200以上の会員団体とともに、

  • スマートシティに関わるテーマ別の分科会
  • データ連携基盤を活用したサービス開発に関する勉強会
  • サービスカタログ・マーケットプレイスを通じたサービスの掲載・閲覧
  • サービス開発環境の提供、開発者コミュニティの運営

等の取り組みから、スマートシティの社会実装に向けた知見の蓄積と実践に取り組んでいます。

その中で、「街のにぎわい広場」「グリーンインフラ×ICT」「保健師業務支援サービス」など、テーマごとに分科会やワーキンググループを設置し、活発に議論や活動を行っています。

関心のある方はぜひSCSIのWebサイトをご覧ください。

https://www.sc-consortium.org/

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