飲食店のタブレットオーダーシステムを安価で提供
オーダーした料理がなかなか出てこない、頼んだメニューと違うものが来る、店員を呼んでも来ない――飲食店で、イラッとする経験をしたことが誰にでもあるだろう。
飲食店側のスタッフにとっても、忙しく働く中でお客様からクレームを受けるのはつらいこと。その点、各テーブルに設置されているタブレットでいつでもオーダーができると双方にとって便利だ。
そんな飲食店向けタブレットオーダーシステム『smao(スマオ)』を提供しているのが株式会社H2(エイチツー)。smaoは「smart order system」の略。お客は注文したいときにすぐ注文ができるため、オーダーの待ち時間を削減することができ、飲食店もオーダーの素早い提供や人件費の削減が可能なシステムだ。
同様のシステムを提供する会社は他にもあるが、smaoの最大の特徴は他社よりも圧倒的に低い価格で提供できること。その理由を、代表取締役の森田諒平はこう語る。
「飲食店がタブレットオーダーシステムを導入しようとすると、多くの場合は専用端末が必要になり、端末費や店舗での工事費などの初期費用がかかります。その点、当社では、iPadなど既存の端末にsmaoのシステムを導入しているので、端末費も工事費もかかりません。業界で唯一、導入時には1円もかからず月額利用料だけで使用でき、その結果、タブレットオーダーシステムを他社の半分程度の価格で提供できています」
smaoの特徴はそれだけではない。飲食店がタブレットに表示するメニューを変更する際、多くの場合はシステム運営者に依頼しなければならず、時間も追加料金もかかってしまうが、smaoなら店舗側で自由に操作できる。メニューの入れ替えやおすすめ商品のPRなど、店舗側がメニュー表示を変更したいときにすぐに反映できるというわけだ。
さらに、店舗の売り上げと連動して人気商品がメニューの前面に出てくるようにシステムの最適化を図っている。家族連れやカップル、男性グループ、女性グループなど、客層によって表示されるメニューが変わるようなシステムも開発中だ。
こうして飲食店と来店客両方の満足度を高める仕組みを提供した結果、smaoを導入し飲食店では、人件費25%削減、売り上げ10%増加という成果につながっているケースもある。
smaoに限らず、H2は幅広い事業を展開している。クラウドIPフォン事業部では、固定電話の番号で携帯電話から発信したり、全国どこでも同じ番号を使用したりすることができるサービスを提供。主にコールセンターを運営・管理する会社で利用されており、一部上場企業の顧客も多数。最大70%の通信コストカットを実現している。
このほか、インターネット回線の提供・運営を行うネットワークサービス事業部、そして、店舗を検索するとGoogleマップで上位に表示されるように対策し、集客のサポートを行うWebマーケティング事業部がある。ジャンルにとらわれず幅広い事業に挑戦しているのが同社の特徴だ。

自分自身の生活のために、泥臭く生きた創業期
北海道札幌市に、4人兄弟の末っ子として生まれた森田。小学生のときは生徒会長に立候補したり、劇の発表会で主役を演じたりと、リーダー的な存在だった。中学校ではバスケットボール部の活動に没頭したが、貧しい環境だったため、高校時代はアルバイトに勤しむ毎日。びっくりドンキーのキッチンやガソリンスタンド、引っ越し屋などいくつものアルバイトを掛け持ちし、修学旅行の旅費も自分で稼いだ。
高校卒業後は親元を離れ、通信回線を販売する会社に就職。電話営業や飛び込み営業を繰り返す毎日を過ごした。お客様に対しては「優しく包み込むように話すこと」「自分たちが売る商品に自信を持って提案すること」を意識し、誰よりも多く活動。入社わずか2ヵ月で営業成績全国2位を記録した。
その後、通信回線の営業会社2社に勤め、いずれも入社1ヵ月でトップセールスに。そんなとき、双子の兄と幼なじみの友人に会う機会があり、2人が完全歩合制のインターネット回線の飛び込み営業を始めることを知る。森田は2人に営業スキルを伝授するなど全面サポート。さらには、彼らの契約先では1件あたりの報酬が非常に安価であったため、森田自身が通信キャリアと契約し、2人がその回線を売ることでより高額な報酬を得られる仕組みも整えた。
午前中は3人で集まってミーティング、午後は兄と友人はその営業へ、森田は会社へ行き、夜にまた集まってミーティング…という日々が続いた。ところが、思ったように成績が上がらず、つきっきりで指導したいと思い始めた。同時に、自身の立ち位置にも違和感を抱くようになる。
「兄や友人はこのインターネット回線の営業に生活をかけている。契約が少ないながらも、自分で家賃を払ってご飯も食べなきゃいけないから必死に頑張っている。一方で、僕は会社という後ろ盾があって守られているような気がしていました。2人とはこの営業に対する覚悟が違うと感じ、そこに違和感を覚えたんです。だから、会社を辞める決意をして『3人で一緒にやろう』と。それがH2の始まりです」
のちに友人がもう一人加わり、4人で営業を開始。1台の営業車を購入し、札幌から出発すると、移動してはその町で住宅を訪問して営業をかけた。ひととおり訪問すると別の町へ……を繰り返して南へ下っていった。
営業道具はもちろんのこと、炊飯器やカセットコンロ、4人分の布団を車に詰め込んで移動。ホテルに宿泊するお金もなかったため、その土地の不動産屋に片っ端から電話をかけ、期間限定で空き部屋を借りた。安い賃料で借りられたものの、ときには劣悪な物件も。真冬なのにすきま風が吹き込む部屋で眠り、水道から茶色い錆水しか出ずにその水で米を炊いて食べたこともあった。
そのような生活を送りながら各地を行脚していたが、道中で営業車が壊れてしまい、札幌へ戻り電話営業に切り替えることに。すると、森田の電話営業の経験が活かされ、1000件単位の契約が取れるようになった。「うちの商品も売ってほしい」と声がかかり、大手キャリアの回線も取り扱うようになると、業績は順調に伸びていった。そして社員数の増加に伴い、森田はビジネスモデルの転換に踏み切った。
「従業員の給料を上げたいけど、1件いくらで報酬を得るビジネスモデルでは限界がある。会社も社員も成長させたいけど、そのためには安定した収益柱を確立する必要がありました。そこで、自社サービスを開発し、継続的に収入が得られるビジネスモデルをつくったんです。これで収益をコツコツ積み重ねることができ、新しいことにどんどん挑戦できるようになりました」

社員とともに成長してメガベンチャーへ
同社は現在、主要4事業のほか、不動産やECサイトなど、ジャンルにとらわれずさまざまな事業に挑戦している。その原動力は、森田の胸の内にある「危機感」だという。
「どんな成長事業でも必ず横ばいになるときが来ます。会社を右肩上がりで成長させたいので、一つの事業が停滞し始める前に次の手を打たなければなりません。だから、『新しいことをやらなきゃ』という想いは常にあります。何より、単純に新規事業開発が好きなので、これからも時代の先手を打つようなビジネスに挑戦していきたいですね」
森田が心がけているのは、社員を会社の「ファン」にすること。そのために、「会社に来るのが楽しいと思える環境づくり」に余念がない。花見や登山、スポーツ大会など、1年を通してさまざまな社内行事があり、社員旅行は年2回。これらの行事によって社員間のコミュニケーションが増え、良好な人間関係が生まれている。
また、業務においてもその意識が表れている。先輩社員は若手社員に対して指示をするだけではなく、一緒になって考えるように徹底しており、全員で成長できる体制を整えているのだ。
森田の根底にあるのが、企業理念でもある「圧倒的に社員を幸せにする」という言葉。たった3名で立ち上げ、苦しい時期も乗り越え、一緒についてきてくれている社員へ「恩返しをしたい」という想いからである。
「H2が目指すのは、世代を代表するリーディングカンパニー。若い力で新しいことにどんどん挑戦して、今後の日本を支えるような会社にしていきたい。当社が目指すのは大企業ではなく時価総額1兆円のメガベンチャーです。2021年の上場を目標に、これからも成長を続けていきます」

リスナーの目線
出張営業の宿泊先で錆水で炊いたご飯を食べた経験も、自分以外のメンバーが実は飛び込みをさぼっていたエピソードも、終始穏やかな笑顔で語る森田社長。北海道民は穏やかで優しい人が多いと言われていますが、まさに北の大地のような包容力を感じました。電話営業を中心としていた起業当初は、つらくて辞めた人もいるとか。「それでもついてきてくれた社員を何としてでも幸せにする」という強い決意が伝わってきました。
Profile
1989年、北海道札幌市生まれ。高校卒業後、通信系営業会社に入社し、入社2ヵ月で全国300名中2位の営業成績を残す。入社から1年半後に独立し、先輩から受け継いだバーを経営するが、10ヵ月で閉店。その後、営業会社2社を経験し、いずれも入社1ヵ月でトップセールスに。2010年、兄と友人とともにH2の前身の会社を設立し、2018年、H2に社名変更。数多くのスタートアップに出資し、企業顧問を担いながら、若手経営者が集まる「北のワカモン」の理事を務める。